「東京の利回りは低い」——投資用ワンルームマンション市場で長く語られてきたこの認識は、今や一面的な見方に過ぎない。実取扱データを集計すると、東京の利回りは最低3.20%から最高9.94%まで、6都市の中で最も広いレンジに分散していることがわかる。平均値(4.53%)と中央値(4.11%)の間に0.42ポイントの乖離が生じているのも、東京だけの特徴だ。
問題は、この「格差」がどこから来ているかを理解しないまま保有し続けることにある。価格の高い物件、立地の良い物件——そう信じて購入した物件の実際の利回り水準は、今の市場においてどのゾーンに位置しているか。
「平均4.53%」が意味をなさない理由
利回りの「平均」が参考になるのは、データが正規分布に近い形で集まっている場合だ。しかし東京は違う。平均4.53%に対し中央値4.11%——つまり半数以上の物件が4.11%以下の利回りにある一方、一部の高利回り物件が平均を大きく引き上げている。
この非対称な分布の正体は、エリアと築年数の組み合わせによって生じる格差だ。
葛飾区の5.70%と品川区の4.22%の差は1.48ポイント。同じ東京23区内でこれだけの格差が生じている。さらに言えば、品川・新宿といった「立地の良さ」を理由に購入された物件が、実態としては最も利回りの低いゾーンにある。
築年数が利回りを2.5ポイント変える現実
東京の利回り格差を最も大きく規定しているのは、エリア以上に築年数だ。データを築年数別に分解すると、その差は鮮明になる。
| 築年数 | 平均利回り | 平均価格 | 価格差(10年未満比) |
|---|---|---|---|
| 10年未満 | 3.94% | 2,870万円 | — |
| 10〜20年 | 4.04% | 2,284万円 | ▲586万円 |
| 20〜35年 | 4.50% | 1,913万円 | ▲957万円 |
| 35年超 | 6.61% | 969万円 | ▲1,901万円 |
築10年未満の平均利回り3.94%。これが東京における「新築・築浅の実態」だ。6都市の中で最も低い水準であり、同時期に大阪(4.30%)や愛知(4.72%)で取引された物件と比べると、その差は歴然としている。
一方、築35年超では平均利回り6.61%に達する。しかしその平均価格は969万円。高利回りの正体は利回りが改善したのではなく、価格が大幅に下落したことによる数字の上昇だ。出口を考えれば、価格が969万円まで下がった物件の流動性は、2,870万円の物件とは根本的に異なる。
築浅で3%台の利回り——これは「今後改善が期待できる」ではなく、「今の価格水準ではこれが上限」であることを示している。金利が上昇し、価格が調整に入ったとき、最初に厳しい状況に直面するのはこのゾーンだ。
高価格帯市場に特有のリスク構造
東京の投資用ワンルームマンションにおける最大のリスクは、「高価格・低利回り・高ローン残債」という三つの要素が同時に成立している点にある。
価格帯別のデータで確認すると、2,000万円超の物件の利回りは4.03〜4.05%に収束している。東京の物件の相当数がこの価格帯に位置する。この利回り水準でローンを組んでいる場合、変動金利が0.5%上昇するだけでキャッシュフローの収支が大きく変わる。元本を考慮すれば、実質的なネットの収益はすでに薄い状態にある物件も少なくない。
日銀はマイナス金利解除以降、段階的な利上げを進めており、追加利上げ観測も根強い。住宅ローン金利はすでに上昇局面にある。価格が高い=ローン残債が大きい東京物件では、わずかな金利上昇が他都市より大きくキャッシュフローを圧迫する構造になっている。坪単価298万円という水準は、大阪(232万円)の約1.3倍。その価格差がそのまま金利上昇リスクの大きさの差になる。
さらに、実需層の購買力低下という外部圧力がある。インフレや金利上昇が共働き世帯の購買力をも圧迫し、都心では中古価格が下落に転じ、在庫の積み上がりと値下げ成約が広がりつつある。投資用マンション市場への下押し圧力は、価格帯が高い東京において最も先鋭的に表れていく可能性がある。
「保有継続」の前提が変わっている
東京の投資用マンションを長期保有している多くのオーナーは、賃料収入を受け取りながら将来の売却益を期待するという前提で物件を取得した。その前提は、価格が上昇し続け、賃料水準が維持され、金利が低いという三つの条件に依存していた。
2026年春の市場は、その三つの条件がいずれも変化の局面にある。価格は高止まりしているが上昇余地は限られ、賃料への下方圧力が生まれつつあり、金利は上昇を続けている。
この変化は、「今すぐ売るべき」というシグナルではない。しかし、現在の金利水準・賃料水準・管理コストを前提とした収支を改めて計算し直してみることは、今の局面において保有戦略を持つための最低限の作業だ。特に利回りが3〜4%台の物件は、想定よりも早くキャッシュフローがマイナスに転じるシナリオを排除できなくなっている。
価格の高止まりが続く今は、選択肢が相対的に多い時期でもある。価格調整が本格化した後では、同じ判断を下すためのコストが大きく変わる。